
一眼カメラ用の交換レンズには実に様々なレンズがありますが、その中でも異彩を放つレンズといえばティルトシフトレンズではないでしょうか。
使い方や使い道すら知らない人も多いティルトシフトレンズですが、需要がある場所では必需品ともいえるレンズです。
そんなティルトシフトレンズについてみていきましょう。
ティルトシフトレンズとは
ティルトシフトレンズとはレンズの鏡筒部分に特別な設計があり、光軸をズラしたり、角度を付けたりすることが出来るレンズです。
光軸をずらすことをシフト、角度を変えることをティルトと呼びます。
ティルトシフトレンズとして両方の機能をもたせたレンズが多くありますが、ティルトレンズ、シフトレンズといった、片方だけの機能を持ったレンズもあります。
ティルト撮影の効果とは
ティルト機構はレンズがくの字に折れ曲がり、見上げたり、見下ろしたりといった撮影ができます。
わざわざレンズの特殊な機構で角度を変えなくてもカメラごと角度を変えれば問題ないように思えますが、ティルトにはカメラの角度を変えるだけでは得られない、特殊な効果があります。
ティルト撮影は撮影角度を変えるために行うのではなく、ピント面を調整するために行います。
ティルト機構によって光軸に角度をつけることでシャインプルーフの原理によってピント面に角度が付きます。
シャインプルーフの原理を簡単に説明すると、レンズ主面と撮像面が並行ではなく、ティルトレンズのように角度がある場合は、ピント面も、レンズ主面、撮像面が交わる直線と交差する角度に傾くという原理です。
そのため、テーブルフォトなどを行うときに、テーブル上のアイテム全てにピントを合わせることができます。

ティルト撮影のイメージ。ピント面(赤線)が変化する。
絞りの効果との違い
ティルトの効果はF値を上げてパンフォーカスにすることと混同されがちですが、ティルトはあくまでピント面を変更するので被写界深度は変わりません。
そのため、コマーシャルフォトで商品に注目させたい場合にはティルトを使うことで、商品だけにピントを合わせつつ、背景はボカスことができます。
絞りで被写界深度を変えると、商品の一部だけにピントがあったり、商品以外にもピントがあったりしてしまうので、同様の撮影はできません。
また、全体にピントを合わせようと絞りすぎると小絞りボケが発生し、全体の解像感が下がってしまうので、コマーシャルフォトではティルトレンズは必須です。
シフト撮影の効果とは
シフト機構は光軸を並行にずらすことができます。
これもコマーシャルフォトには必須です。
鏡など反射のある被写体を撮影する場合、正面から撮ると撮影者が写り込んでしまいます。
しかし、シフト機構を使うことで、被写体の正面に立たずに正面写真を撮ることができます。
ただし、これはシフト機構の効果の1つであり、最も大きな効果が得られるのは建築写真です。
高層ビルを撮影するときはどのように撮影しますか?
おそらく広角で下からあおって撮ることでしょう。
しかし、そうするとビルの高層階付近では歪みが発生してしまいます。
そこでシフト機構です。
シフト撮影をすると、ビルの垂直を歪ませることなく撮影することができます。
また、この効果を逆手に取るとポートレートでは被写体の脚を長く見せたりすることもできます。
ティルトシフトレンズの注意点
ティルトシフトレンズを購入する前に、まず知っておくべきこととしてはMFの単焦点レンズであるということです。
ティルトシフトレンズは他のレンズにはない機構があるので、AFは使えません。
ティルト撮影やシフト撮影で複雑な手順が必要ですが、さらにMFでピント合わせを行う必要もあります。
さらにティルトシフトレンズはズームレンズはありません。
全て単焦点レンズなので、撮影目的や被写体に合わせた焦点距離のレンズを準備する必要があります。
この様に、お世辞にも使い勝手が良いとはいえないレンズですが、その上純正のティルトシフトレンズは大三元クラスの価格でちょっと手を出すには躊躇するレンズでもあります。
ミニチュア風撮影やパース調整ならソフトでも加工できる
ミニチュア風撮影を目的にティルトシフトレンズを知ったという人も多いでしょうが、ミニチュア風撮影をするだけならわざわざ高価なティルトシフトレンズを購入する必要はありません。
現像ソフトやフリーソフトを使えば普通に撮影した画像でも簡単にミニチュア風写真に加工することができます。
また、シフト撮影したようなパースの歪みがない写真への加工も画像ソフトを使えば可能です。
唯一無二のティルトシフトレンズ
さて、こうなってくるとティルトシフトレンズは不要と思い始めた人もいるかもしれませんが、そうではありません。
ミニチュア風写真は加工でできますが、ティルトシフトレンズを使ったほどの強いミニチュア感は得られません。
そもそもソフトでの加工ではボカすことはできますが、ボケた部分にピントを合わせることはできません。
面でピントを合わせるティルト撮影にはティルトシフトレンズでしか撮影できません。
ティルトシフトレンズの代わりは他のレンズでは不可能です。
広告写真、建築写真ではティルトシフトレンズが必須となります。

シフト撮影で城を歪み無く撮影している
アマチュアカメラマンでも、テーブルフォトや建物写真を主とするなら、1本は持っておきたいレンズとなります。
大三元で撮影した写真と小三元で撮影した写真の違いは素人目にはわからないこともありますが、ティルトシフトレンズで撮影した写真と、その他のレンズの写真は素人でもはっきりと違いがわかります。
ティルトシフトレンズはそれほど強い個性があります。
ティルトレンズやコンバーターでお試し
純正のティルトシフトレンズは高価ですが、シフト機構のないティルトレンズやシフト撮影が可能になるコンバーターはそこまで高価ではありません。
お手軽にティルト撮影やシフト撮影を試してみたいという場合は、まずそういったもので試してみると良いでしょう。
ティルトシフトレンズは使い方にクセのあるレンズですが、その分、使い方をマスターすればオリジナリティ溢れる写真を量産することができます。
自分の撮影スタイルが見えてきたら、新たなレンズ資産として1本加えてみることを検討してみるとよいでしょう。